吊り天井とは?構造や耐震性について
吊り天井は天井構造の1つで、遮音性・デザイン性に優れた天井です。一般的な大型施設やオフィスの天井に利用されています。
しかし、吊り天井はメリットだけでなく、耐震性に関するデメリットもあり、一長一短な側面もあります。この記事では、吊り天井の構造とメリット・デメリットを説明し、デメリットを解決するためにはどうしたらいいかもご案内します。現在吊り天井の施設を管理している方や、耐震性に不安を抱えている方は特に、天井改修の参考にしてみてください。
Contents
吊り天井とは?
吊り天井とは、天井裏に枠組みを吊り下げ、そこに天井ボードを取り付ける工法で作られた天井です。
そもそも天井には大きく分けて、吊り天井と直天井(じかてんじょう)の2種類があります。直天井は、上階の床裏や床に直接天井を張って作る天井です。上階の床裏を塗装するなど、天井材を張らない方法も用いられます。直天井は、吊り天井とは異なり、上階の床と階下の天井の間に空間がないため、足音の響きやすい点がデメリットです。
一方、吊り天井は、上階の床下から吊り下がる形で天井が作られ、上階と階下の天井には空間が生まれます。この空間を利用し、電気配線や配管などを設置できるため、室内がすっきりとした印象になります。ただし、吊り天井は枠組みに天井ボードをはめているだけで、地震などの災害時に落下しやすいことがデメリットです。震災時の天井落下を防ぐため、大型施設の吊り天井は設置基準が設けられるようになりました。
吊り天井の構造
吊り天井は直天井とは異なり、構造が複雑です。ここでは、吊り天井の構造について詳しく解説します。
吊元(躯体)
天井の吊元とは、吊り天井をつける建物の骨組みのことです。吊り天井は、吊元を足場として作られています。
吊金具・吊元金具
吊金具・吊元金具とは、吊元と吊りボルトを接合するために使われる金具です。
吊元が鉄筋コンクリート造の場合は、埋め込み型の鋼製インサートなどを吊元の接合部材として使用することもあります。
吊りボルト・ナット
吊りボルト・ナットは、吊元と吊金具を接合します。天井を吊るすために負荷がかかる部分でもあり、耐久性に優れたボルト・ナットが使われます。
ハンガー
ハンガーとは、吊りボルト・ナットと野縁受けを固定するためのフックのような金具です。
天井の枠組みを作るために必要な金具で、ハンガーで天井を水平に調節します。
野縁受け
野縁受けとは、後述する野縁と呼ばれる部材を固定するための部材です。天井の枠組みの大元になる部分でもあります。ハンガーを通して、吊りボルトに固定されます。
クリップ
クリップとは、野縁受けに野縁を取り付けるために使う金具です。野縁を挟むような形状をしているため、クリップと呼ばれています。地震の際に外れやすい部位ともいわれ、近年はより強度の高い形状のクリップが選ばれています。
野縁
野縁とは、野縁受けに直交するようにクリップで取り付けられる部材です。ここに天井となる板材が張られて、吊り天井ができあがります。
天井ボード
天井ボードとは、実際に天井として見える部分に張るボードです。
材質は、石膏ボードや吸音板のほか、岩綿や金属パネルなどが使用されるケースもあります。天井ボードは野縁にビス止めされており、ボードが重なる部分は接着剤で固定されるのが一般的です。天井ボードは、化粧仕上げされたものと材質そのままのものがあり、必要に応じて塗装やクロス張りをおこないます。
ジョイント(長尺材の連結金具)
ジョイントとは、野縁や野縁受けを延長するための金具です。天井が広く、1本の野縁(野縁受け)では長さが足りないときに、複数の野縁(野縁受け)を繋ぎ合わせるために使われます。
吊り天井のメリット
吊り天井は、オフィスや大型施設の天井として、広く利用されています。とくに吊り天井の1種であるシステム天井は、空調や照明設備を天井ボードと一体化させることで、施工の簡単なことが特徴です。
ここでは、システム天井も含めた、吊り天井のメリットを3つ紹介します。
遮音性が高い
吊り天井は直天井と比較して、遮音性に優れているのがメリットです。
吊り天井を作る際は、上階の床材に吊り材と呼ばれる枠組みを吊るし、枠組みに天井材を取り付けます。そのため、上階の床から階下の天井の間に空間ができ、上階からの音が伝わりにくくなるのです。天井材の種類によっては、階下からの音を防音・吸音することもでき、柔軟性の高い天井と言えます。吊り天井は、体育館や音楽ホール、劇場など、大きな音を扱う施設で積極的に使われている天井です。
天井裏に設備を隠せる
吊り天井は、天井裏に空調や照明、配管などを隠せるメリットもあります。上階の床から階下の天井の空間を利用し、電気配線や配管を設置できるのは魅力の1つです。とくにオフィスでは、配線がむき出しになると企業イメージにも影響するため、吊り天井が好まれます。配線・配管を隠し、すっきりとした空間に見せられます。
メンテナンス性に優れる
吊り天井のメリットの1つに、メンテナンスをしやすいことが挙げられます。天井材を固定する直天井と異なり、天井材を枠組みに天井ボードをはめる方式のため、取り外しが比較的容易にできます。張り替える場合も、修繕が必要な部分だけを取り換えるだけで済むのも、吊り天井の特徴です。
吊り天井のデメリット
吊り天井は、防音性・メンテナンス性に優れており、室内をすっきり見せるメリットもありますが、一方でデメリットも存在します。とくに耐震性については、人の命にもかかわるため、吊り天井のデメリットを知っておく必要があるでしょう。
ここでは、吊り天井のデメリットを3つ説明します。
吊り天井の耐震性は?
吊り天井は、建物の上部から枠組みを吊るす仕組みのため、地震によって天井の崩壊が起きやすいと考えられています。実際に、2011年の東日本大震災では、施設の吊り天井の落下事故が相次ぎました。当時、震度5強を記録した東京都千代田区では、九段会館ホールの天井が崩落し、2名の方が亡くなっています。
東日本大震災の被害に鑑み、2013年に文部省では、公立高校の吊り天井を撤去する方針を発表しました。
天井高が直天井に比べて低くなる
吊り天井の天井高は、直天井と比べて低くなることがデメリットです。
建物上部と天井ボードの間に枠組みがあるため、空間ができる分、天井高は低くなります。空間を利用して、電気配線や配管を設置できることがメリットですが、天井が低くなることで圧迫感を覚える場合もあります。吊り天井によってできる空間は、メリット・デメリット両方の側面があることを理解しておきましょう。
施工に時間がかかる
天井の施工に時間がかかることも、吊り天井のデメリットです。吊り天井は、天井から格子状の枠組みを作り、そこに石膏ボードなどで天井を取りつけ、クロスや塗料で仕上げます。天井に直接クロスを張ったり、塗料を塗ったりする直天井よりも、吊り天井の場合は枠組みを設置する工程が増えます。そのため、直天井を選択した場合よりも、施工に時間がかかるのです。
天井落下の危険性について
前述のとおり、2011年の東日本大震災において、吊り天井の崩落事故が散見されたため、国土交通省により新しい基準の制定と建築基準法施行令の改正が行われました。ここでは、天井落下の対策に関係する施行令と施工基準について説明します。
建築基準法施行令39条
建築基準法施行令39条第3項と第4項は、2014年4月1日に施工された天井の耐久性にかかわる規定です。東日本大震災の被害を受けて新設されたもので、「脱落によって重大な危害を生ずるおそれのあるものとして国土交通大臣が定める天井」を特定天井として、基準を定めています。
国土交通大臣の定める特定天井とは、次の条件に当てはまる吊り天井です。
- 6mを超える高さにある
- 面積200㎡超
- 質量2kg/㎡超
- 人が日常的に利用する場所に設置されている
39条第3項によれば、特定天井の構造は、構造耐久性上安全なものでなければなりません。また第4項には、「特定天井に定められる天井は、腐食・腐朽に対して劣化の防止措置をとる必要がある」と、記載されています。
天井脱落対策の基準
特定天井にあたる吊り天井は、天井脱落対策の基準に適合したものでなくてはなりません。天井脱落対策の基準とは次のとおりです。
適合部位 | 基準 |
クリップ・ハンガー等の接合金物 | ねじ止めなどで緊結する |
吊りボルト・斜め部材等の配置 | 密に配置すること |
吊りの高さ | 3m以下で、おおむね均一であること |
水平方向の設計用地震力 | 最大2.2G |
天井面と壁との隙間(クリアランス) | 原則6cm以上 |
上記は、施設の新設・増改築に適用される基準です。既存の建築物においては、特定天井であっても規定・基準が遡及適用されることはありません。大規模修繕では、新設と同様の基準が適用されることがあります。
膜天井への改修で安全性を確保
耐震性に不安のある吊り天井の代わりとして、膜天井が注目されています。膜天井とは、吊り天井に使われる吊り材が不要で、安全性の高い天井です。基準や規定の多い吊り天井よりも、安全で意匠性も高い膜天井は、新設・改修の際に選択肢の1つとして検討すべき施工法でしょう。
ここでは、膜天井のメリットと実際の改修例を紹介します。
膜天井のメリット
膜天井は、建物の上部に枠組みを取り付け、そこに天井材として膜材を張った天井です。
従来の吊り天井は、天井材としてパネルや石膏ボードを取り付けていました。そのため、地震の揺れで天井材が落ちると、下にいる人にあたる事故になりました。しかし、パネルではなく薄くて軽い膜材を天井材にすることで、地震で万が一落下しても下にいる人に対するダメージを最小限にとどめる効果があります。膜天井の膜材は、1㎡あたり約600gと、石膏ボードと比べて16分の1の軽さです。
また、硬い素材を天井材に使用すると、揺れで壁にぶつかって破損する事故が起きやすいことも問題でした。この点も、柔らかい膜材は変形が自由なため、壁や周辺の構造物を傷つけるリスクの低い天井材です。
膜天井は、デザイン性に優れていることもメリットの1つです。テンションを加えて張れば、従来の天井のように平らな天井に見せることもできます。とくに天井の高い大型施設では、一見しただけでは従来天井か膜天井かの区別は難しいでしょう。
膜天井への改修例
弊社では、膜天井用の膜材として、厚さ0.5mmの特注シートを使用しています。編み込み方も特注で、表面は紫外線や湿気に強い樹脂層で保護しているため、耐久性も安心です。
独自製法による膜天井は、静岡県浜松市の公共体育館にも採用いただいています。
こちらの避難用体育館は、天井の改修の際に弊社の膜天井を採用いただきました。従来型の吊り天井でしたが、地震対策のために改修工事をおこない、防火機能のある膜天井を張り、耐震性を強化しています。また天井はフラットでたるみがないため、すっきりとしたデザインを実現しています。
吊り天井を改修するなら耐震性に優れた膜天井がおすすめ
吊り天井は、建物の上部と天井までに空間ができるため、遮音性が高く、電気配線や配管を隠せることがメリットです。しかし従来の吊り天井は、劣化により耐震性に問題を生じる可能性があることを指摘されています。そのため、新設・増築・改修の際は、国土交通省が定める建築基準法施行令や基準に適合した施工を求められます。
それに対し膜天井は、軽くて柔らかい素材でできており、地震による落下で事故が起こるリスクを最小限にとどめられるのがメリットです。天井の改修工事をおこなうなら、基準の厳しい吊り天井よりも、安全性の高い膜天井を検討するとよいでしょう。
弊社の膜天井には、独自製法の特注シートを使用しています。より薄く、強度の高い膜天井を提供できます。吊り天井を震災に備えて対策しておきたいとお考えの方はぜひ一度OSテックにご相談ください。全国どこでも貴社の用途に合わせて膜天井への改修をご提案させて頂きます。